血圧のウソとホント|「正常値140」は本当に正しいのか?医療従事者が現場目線で解説
「血圧が高いですね。お薬出しておきますね」
医療現場で日常的に交わされるこのやり取り。しかし、その裏側には多くの“誤解”が存在します。
血圧は健康管理の重要な指標である一方で、過剰に単純化されて扱われている数値でもあります。
今回は現場経験を踏まえ、「血圧のウソとホント」をわかりやすく、そして少し踏み込んで解説します。
①「140/90以上=即アウト」は半分ウソ
日本では一般的に、診察室血圧が140/90mmHg以上で高血圧とされます。
これは日本高血圧学会のガイドライン(JSH2019)に基づいた基準です。
しかし重要なのは、この数値があくまで目安であるという点です。
血圧は以下の要因で簡単に変動します:
- 測定時間(朝・夜)
- ストレスや緊張
- 運動後
- 室温や季節
特に「白衣高血圧」と呼ばれる、医療機関でのみ血圧が高くなる現象はよく知られています。
つまり、1回の測定で140を超えただけで薬物治療に進むのは、本来慎重であるべきなのです。
②「血圧は低いほど良い」は危険な誤解
「血圧は低ければ低いほど健康」という考え方は広く浸透していますが、これは誤りです。
特に高齢者においては、過度な降圧により以下のリスクが報告されています:
- 転倒・骨折
- 脳血流低下
- めまい・ふらつき
参考:
Intensive Blood Pressure Control and Falls Risk(米国論文)
また、日本のガイドラインでも高齢者では目標血圧が緩和されるケースがあります。
重要なのは「正常値」ではなく「その人にとって適切な血圧」です。
③ 降圧薬を飲めば安心?→それも半分ウソ
降圧薬は確かに、脳卒中や心筋梗塞のリスクを下げることが証明されています。
しかし、ここで見落とされがちなポイントがあります。
「薬を飲んでいる=安心」ではないということです。
現場でよくあるのが:
- 生活習慣が全く改善されていない
- 飲み忘れが頻発している
- 必要性が再評価されていない
特に軽度高血圧では、生活習慣の改善(減量・運動・減塩)が優先されるべきケースも多く存在します。
薬はあくまで「補助」であり、「免罪符」ではありません。
④ 家庭血圧の方が重要(これはホント)
現在の高血圧診療では、「家庭血圧」の重要性が強調されています。
- 診察室血圧:140/90以上
- 家庭血圧:135/85以上
と、基準も異なります。
参考:
日本高血圧学会:家庭血圧の重要性
家庭血圧は日常の状態を反映するため、
実際のリスク評価にはこちらの方が信頼性が高いとされています。
薬剤師としても、家庭血圧を記録している患者の方が圧倒的に管理しやすいのが実感です。
⑤「減塩だけでOK」は不十分
高血圧対策=減塩、というイメージは非常に強いです。
もちろん塩分制限は重要ですが、それだけでは不十分です。
血圧に影響する主な要因は:
- 体重(肥満)
- 運動不足
- 飲酒
- 睡眠の質
- ストレス
参考:
CDC:高血圧の予防
つまり、生活全体の改善が必要であり、塩分だけに注目するのは片手落ちです。
⑥ 現場で感じる違和感
ここは少し踏み込みます。
現場で働いていると、
「とりあえず降圧薬」という流れ
を感じる場面があるのも事実です。
もちろん、医師はガイドラインに基づいて適切に判断しています。
しかし一方で、
- 十分な生活指導が行われていない
- 再評価が不十分
- 患者が受け身になっている
といった課題も見えます。
これは医療者側だけでなく、患者側の理解不足も含めた「構造的な問題」です。
まとめ|血圧は「管理するもの」であって「下げればいいもの」ではない
血圧に関する重要なポイントを整理すると:
- 140/90は絶対的なラインではない
- 下げすぎもリスクになる
- 薬だけでは不十分
- 家庭血圧が重要
- 生活習慣が本質
そして最も重要なのは、
「その人にとって最適な血圧」を考えること
です。
数値だけを追いかける医療から、個別性を重視した医療へ。
それが、これからの高血圧管理に求められる視点だと考えます。


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