ピルはなぜ日本で広まらないのか?世界と20年遅れの避妊事情
避妊薬「ピル」は、20世紀の医学が生んだ最も社会を変えた薬の一つと言われている。
1960年、アメリカで世界初の経口避妊薬「Enovid」が承認された。
この薬は単なる避妊薬ではなかった。
女性が自分の意思で妊娠をコントロールできるようになったことで、社会構造そのものに大きな影響を与えた薬だった。
しかし2020年代の現在、日本はこの流れから大きく取り残されている。
世界では当たり前に使われているピルが、日本ではいまだに「特別な薬」として扱われているのが現状だ。
世界では当たり前の避妊法
まず現実を見てみよう。
世界ではピルは非常に一般的な避妊方法として使われている。
- フランス:約40%
- ドイツ:約35%
- イギリス:約28%
- アメリカ:約14%
一方、日本のピル使用率はわずか数%にとどまっている。
これは先進国の中でも極めて低い数字であり、日本の避妊事情が世界と比べて遅れていると言われる理由の一つとなっている。
参考:
OECD Health Data
United Nations Population Division
日本でピルが承認されたのは1999年
実は日本で低用量ピルが承認されたのは1999年と比較的最近のことだ。
欧米では1960年代から使われていたことを考えると、日本は約30年近く遅れていたことになる。
この承認は、ある出来事と比較されてよく語られる。
それは男性のED治療薬「バイアグラ」である。
バイアグラは1999年3月に承認された。
低用量ピルは1999年6月。
つまり日本では、男性の性機能薬の方が先に承認されたのである。
参考:
PMDA 医薬品医療機器総合機構
ピルの安全性はどうなのか
日本では今でもピルに対して次のようなイメージを持つ人が少なくない。
- 体に悪い
- 太る
- 将来妊娠できなくなる
- 血栓症が怖い
確かにピルには副作用が存在する。
しかし現在の低用量ピルは1960年代のものとは大きく異なる。
当時のピルは現在のものよりはるかに高用量のホルモンを含んでいた。
その後、ホルモン量は大幅に減らされ、安全性は大きく改善している。
また研究では、妊娠や出産の方が血栓症リスクは高いことも知られている。
参考:
World Health Organization
American College of Obstetricians and Gynecologists
現代のピルは避妊薬だけではない
現在、ピルは単なる避妊薬ではなく、婦人科治療薬としても広く使われている。
例えば次のような疾患の治療に使われる。
- 月経困難症
- 子宮内膜症
- 多嚢胞性卵巣症候群
- 月経前症候群(PMS)
つまりピルは女性の体調を整える薬としての役割も担っている。
日本では避妊目的よりも、月経困難症の治療として処方されるケースが増えている。
参考:
日本産科婦人科学会
進化する避妊薬
現在、避妊薬はさらに進化している。
超低用量ピル
従来よりホルモン量をさらに減らしたピルが登場し、副作用の軽減が図られている。
緊急避妊薬(アフターピル)
性交後に服用することで妊娠を防ぐ薬で、海外では薬局で購入できる国も多い。
一方、日本では基本的に医師の処方が必要であり、入手のハードルは高い。
参考:
厚生労働省
避妊は社会の問題でもある
避妊の問題は単なる個人の問題ではない。
避妊がうまくいかなければ、望まない妊娠や中絶など社会問題にもつながる可能性がある。
そのため多くの国では、避妊教育やアクセスの改善が社会政策として議論されている。
日本はこのままでいいのか
日本では少子化が深刻な問題になっている。
しかし避妊や性教育についての議論は十分とは言えない。
ピルを使うかどうかは個人の選択である。
しかし少なくとも、正確な情報にアクセスできる環境は必要ではないだろうか。
1960年に誕生したピルは、60年以上たった現在でも社会に影響を与え続けている。
そして日本では、その変化はまだ始まったばかりなのかもしれない。


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